国立広島・長崎原爆死没者追悼平和祈念館 平和情報ネットワーク GLOBAL NETWORK JapaneaseEnglish
HOME 体験記 証言映像 朗読音声 放射線Q&A

HOME体験記をさがす(検索画面へ)体験記を選ぶ(検索結果一覧へ)/体験記を読む

体験記を読む
地獄を見た日 
荒井 彊(あらい きょう) 
性別 男性  被爆時年齢 20歳 
被爆地(被爆区分) 広島(直接被爆)  執筆年 1995年 
被爆場所 広島市(皆実町)[現:広島市南区] 
被爆時職業  
被爆時所属  
所蔵館 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館 
暑い夏の朝だった。上空を飛ぶB29の爆音が聞えていた。突然、音もなく黄色いせん光が窓の外を走った。続いて強烈な爆風が襲って来た。

半壊の建物から抜け出して見ると、幹だけになった柳の木の下で小使のおばさんが目を開けたまま虚空をつかんで死んでいた。

向いの鳩隊では、餌をこぼして古参兵にいじめられていた初年兵が■の下じきになって死んでいた。

いじめた古参兵も顔を焼かれ、壁に叩きつけられ死んでいた。

鳩隊に生存者はいなかった。

崩れた校舎からやっと一人助けることのできた女の子は「モンペが破れてお母さんに叱られる」と独り言を云った後、口笛を吹くような音を出して倒れ二度と起き上らなかった。見たら頭が割れていた。

ふと目を上げると、電車通りを一ぱいになって皆んな駅の方に歩いて行く。皆んな灰をかぶったような頭をして、うなだれて、ぼろのようなものをぶら下げて歩いている。

手を焼かれたのか両手を前に出して歩いている人がいる。正面から焼かれたのか男か女かわからない人がいる。道端に倒れ起き上らない人がいる。

すでに意識のない赤ん坊をだいてうつろな目で歩いている母親がいる。

親のぼろにつかまり歩いている子供がいる。

背負われた人もいる。背負った人の足どりは重い。

次から次と目の前を通り駅の方に消えて行く。まさに子供の頃お寺で見た地獄絵の亡者そのものである。なすすべもなく茫然と見送るだけだった。

死んだおばさんも女の子も鳩隊の兵隊達も、行列の人達も皆んな三途の川を渡りに行ったのだろうか。いや違うよね。

女の子はおばさんに手を引かれ、兵隊は一団になって、行列の人達はお互に助け合いながら戦争のない遠い宇宙の星に行って仲よく暮しているよね。この地球も二度と戦争を起さない平和な星にしたいよね。
  

HOME体験記をさがす(検索画面へ)体験記を選ぶ(検索結果一覧へ)/体験記を読む

※広島・長崎の祈念館では、ホームページ掲載分を含め多くの被爆体験記をご覧になれます。
※これらのコンテンツは定期的に更新いたします。
▲ページ先頭へ
HOMEに戻る
Copyright(c)国立広島原爆死没者追悼平和祈念館
Copyright(c)国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館
当ホームページに掲載されている写真や文章等の無断転載・無断転用は禁止します。
初めての方へ個人情報保護方針