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クラウス・ルーメル神父の日記 
クラウス ルーメル(くらうす るーめる) 
性別 男性  被爆時年齢 28歳 
被爆地(被爆区分) 広島(直接被爆)  執筆年 1945年 
被爆場所 イエズス会長束修練院(安佐郡祇園町[現:広島市安佐南区長束西二丁目]) 
被爆時職業  
被爆時所属 イエズス会長束修練院 
所蔵館 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館 
二十八日

機動部隊がいよいよ退却したと思ふと今日も又艦上機何百機現れたのです。其れは私の道徳の試験が終らない中に空襲警報がなって、五分も立たない中にもう町の上を飛んで投彈して居たものでびっくり致しました。

八月十八日

六日以後日記を書き續く時間もなくて、其間経験した事餘り恐しいので書く氣分も起りませんでした。

六日の朝八時ちょっと後の事ですが、広島市の上に物凄い幅の広い大きな炎が現はれた。これこそ長く前より豫想して居た空襲だなと思って、私は地下室への階段に飛び下りてしまいました。と同時に間もなく音の深い爆發が聞こえ、家が震へ、窓ガラス等色々なものが私の頭の上にどたんと落ちて来ます。再び頭を上げますと、最早村の農家あっちこっち燃え上がって居ます、そして広島市の空は眞黒になって居ます。

私達皆たくさん血を流して居ますが、誰も大きな怪我をして居ません。

しばらくして町より最初の火傷した負傷者が非度く泣きながら走って来ます。苦がって呻きながら聖堂、應接間等で横になります。一番悪い患者を祗園の救護所へもって行きます。帰りの道に長い長い負傷者の行列を通らなければならない。一日間續いて後から後からと人が走ったり、泣いたり、さけんだり大火事の中より逃げて来ます。

火傷は普通の火傷でなく、醫師も初めに療法を知らない。

アルペ院長様も朝から晩まで、又晩より朝まで治療に忙しいです。

六日の夜、疲れ果てたにもかかはらず、幟町教會からラッサル神父様を擔架に乗せて以て来る人を向ひに行きます。

三篠橋でしばらく待つと兵隊の叫び聲が聞こえ、水、水と言って居ます。何十人非度く火傷した人が燃えて居る兵舎の側に横はって居ます。近くの井戸より水をたくさん汲んで来ると、近くの倒れた家の上に人がやって来て、向ふに病人が居るらしいから少し見て行って下さいませんか」と云って見えなくなってしまふ。行って見ると、遠くより「助すけて、助すけて」と叫ぶ聲がある。
しかし方面が解らない。

しばらく良く聞いてから、この聲が下より、二階の家の下に下敷にされた母と二人の娘より發せられるものだと解った。

其の場で二人を掘り出して、後の一人を警防團にまかせて退きました。

一生の間の三人の言う事、その時の氣持ち忘れられない。一人の胸の上に重い板が落ちて、一日中その胸を押付けて居た。もう一人はちょうど孕んで居た。若い主人は直ぐ側に死んでしまって居た。

其れから又幟町に行き續きまして、途中で見たあの大火事に照らされた景色を描く事が出来ません。破壊、死人、死にかかっている人間…

後で聞きますと、最初に死んだ人間丈けで二十萬ばかり死んだ。其の他の九十パセント以上は負傷したが、後で其の大部分は救護所の中に死亡した。

帝釋にて

八月二十四日

この十日間の間見た有様を描く事が出来ません。何回も死と云ふものの一番恐しい姿に出合った。

それから聖母被昇天の日天主はいよいよ足れりとお思ひになり、急に、誰も考へなかった所に平和となりました。

しかし私たちは未だこの平和の為の最後の犠牲を葬らねばならなかったのです。最初にやられた二十萬人の外に火傷した可愛相な人間は後から後からと死んでしまいました。これらと合はせて死亡者の数は三十萬に達するだろう。

十六日の朝教會の隣級の中でなくなった人の為葬式ミサを歌ひました。各々の家族に死亡者一人、二人、三人位ありました。これは私の最初の荘巖葬式御ミサにして、この時の説教は司祭になってからの最初の私の説教であった。この大戰争の猛烈な最後の一時期は則私の司祭生活の最初の一時期であった。……

現在から見れば過去のこの二週間は夢の如く思われます。märchen(メルヘン) の世界にでも入たかの様な氣が致して居ります。今住んでいる家はmärchenschloss(おとぎ話の城)の様に湖の中に立つて居ます。天主様御自分が不思議に我らを慰めて下さいます。

平和になってからでも警察は軍部の騒亂を恐れて、この世を離れた所に移動する命令を發した。六日以後の事永久に忘れられなくとも、いくらかこの靜寂なる所に落附くことが出来ます。

主よ、汝の平安を我らに与え給へ!
  

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