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瓦礫野で救護活動 
池田 実(いけだ みのる) 
性別 男性  被爆時年齢 18歳 
被爆地(被爆区分) 長崎(入市被爆)  執筆年  
被爆場所  
被爆時職業 生徒・学生 
被爆時所属  
所蔵館 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館 

一、キノコ雲沸き上がる

長崎の中心地より離れること一〇数キロ、香焼の学校で受講中のさなか突然目の前にきらめいた稲妻のような、まばゆい目も眩む白色閃光がガラス窓に一挙に燦然と輝いた。

その後ドーカンと大音響が耳をつんざくと共に教室は大きく揺れた。学生達は反射的に机の下にしゃがむこと数分間、耳や目或いは口を指で押えたまま。

沈黙の分秒が続くも、つい気持ちが焦ってしまい教室から裸足で出て見ると、目の前に真っ白な雲か煙りか濛々と沸き上がっている。

あの入道雲よりももっと早いスピードで。

後で判ったがこれが正に巨大なキノコ雲であった。

二、この世の地獄か

翌日我々は急遽軍当局の命により長崎市内に救援隊員として派遣された指定の山里国民学校まで行く途中の惨状はもっとも苛酷で筆舌に尽くせない即ち見渡す限り瓦礫野で焦土化し、コンクリートの建物は半ば崩れ落ち緑の山も全て焼き付くし、この世の終りを告げたような状況だった廃墟、死の街とは正にこのことであらうかと。

沿道は吐気を催す臭気が鼻を衝き、青い炎が一面に漂い燃え続いている。至る所に転がっている黒焦死体の顔は焼け膨れただれ、皮膚はぶらさがり水ぶくれは甚だしく目は飛び出しドロンと開いているだけの人も多かった痛ましい屍が累々と横たわり、そのあまりの悲惨さは人類滅亡の日を見ているようだった。

たった一発の爆弾でこんな目に会うとは、胸が締め付けられ身の毛が奮い立と共に恐怖と腹立ちそれに惨めさも加わり反面、情けない心境で、心の底から怒りを覚えると共に悔しさで一杯だった。

三、ミズ「水」

楠の木・電柱・塀等すべてを凪ぎ倒し、裂かれ砕かれている山里国民学校に到着したものの何から手をつけていいものか戸惑い、しばし呆然としていた。

髪の毛がすっかり焼け切れ男か女かの見分けのつかない人に出あった。どうも女の先生らしい。

ミズを、水下さい水下さい、と半狂乱の微かな呻き声。

佐世保からの派遣軍医は水は絶対に与えるなときつく指示されていた。

必死に泣き崩れそうな顔で哀願さえる先生を眺めていると、つい軍医に隠れ震える手でこっそりと数滴の水を口に含ませてやった。

でもこの先生も赤痢のような血便と、異常な発熱に苦しみ三日目には両親にも会えないまま息を引き取られたようです。

四、肉親を探し求めて

三・四日目頃になるとあちこちから肉親や知人を求め探す人が多くなった。特に狂乱したかの様に妻を探し求める夫の姿には涙を抑えるのが精一杯だった。

あまりにも変わり果てた原子野の光景や、焼け尽くした我家を呆然と眺める親子達の足取りは重く放浪の旅そのものである。

五、三度許すまじ原爆を

昭和二〇年八月九日午前一一時二分松山町上空で炸裂した原子爆弾は、七万数千人の貴い命を一瞬にして万解の恨みを呑んで奪い去ったのである。

人生長しと言えども正に生き地獄、あの日の凄惨な光景と悲痛な叫喚は、五〇年たった今でも思い浮かび耳底にこびりつき脳裏を離れない。学生時代の思いでとしては、あまりにもショキングな二度と断じてあるまじき貴重な体験である。

六、語り継ごう後世のために

人類の破滅につながる核兵器だけは、何としても使用させてはならぬ。即ち再び被爆者を出さぬためにも。

あらゆる病気にかかり易いと言われる原爆病で今尚、体や心の傷は癒えず死の恐怖におののきながら、生き続けている患者さんも多いと聞いている。

空襲や戦災もそして原爆を全く知らない世代が多数を占めるようになった現在、被爆体験の風化を防ぎあんなに惨い悲劇を二度と繰り返させぬために、原爆の悲惨さを率直に訴え、広島・長崎両市民が世界で初めて体験した被爆を最初にして最後であらしめるためにも、我々は貴重な体験を後世に声を大にして語り継ぐことが歴史的にも必要と思う。

記憶が定かで無い部分も有るが、これからの人達に被爆体験だけは絶対にさせまい。

たとえ訴えは小さくても、救援活動の生の姿を私なりに正しく伝えられれば望外の幸せと思いペンを執った次第である。

 

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