暑い夏の朝だった。上空を飛ぶB29の爆音が聞えていた。突然、音もなく黄色いせん光が窓の外を走った。続いて強烈な爆風が襲って来た。
半壊の建物から抜け出して見ると、幹だけになった柳の木の下で小使のおばさんが目を開けたまま虚空をつかんで死んでいた。
向いの鳩隊では、餌をこぼして古参兵にいじめられていた初年兵が■の下じきになって死んでいた。
いじめた古参兵も顔を焼かれ、壁に叩きつけられ死んでいた。
鳩隊に生存者はいなかった。
崩れた校舎からやっと一人助けることのできた女の子は「モンペが破れてお母さんに叱られる」と独り言を云った後、口笛を吹くような音を出して倒れ二度と起き上らなかった。見たら頭が割れていた。
ふと目を上げると、電車通りを一ぱいになって皆んな駅の方に歩いて行く。皆んな灰をかぶったような頭をして、うなだれて、ぼろのようなものをぶら下げて歩いている。
手を焼かれたのか両手を前に出して歩いている人がいる。正面から焼かれたのか男か女かわからない人がいる。道端に倒れ起き上らない人がいる。
すでに意識のない赤ん坊をだいてうつろな目で歩いている母親がいる。
親のぼろにつかまり歩いている子供がいる。
背負われた人もいる。背負った人の足どりは重い。
次から次と目の前を通り駅の方に消えて行く。まさに子供の頃お寺で見た地獄絵の亡者そのものである。なすすべもなく茫然と見送るだけだった。
死んだおばさんも女の子も鳩隊の兵隊達も、行列の人達も皆んな三途の川を渡りに行ったのだろうか。いや違うよね。
女の子はおばさんに手を引かれ、兵隊は一団になって、行列の人達はお互に助け合いながら戦争のない遠い宇宙の星に行って仲よく暮しているよね。この地球も二度と戦争を起さない平和な星にしたいよね。
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