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今田 隆子(いまだ たかこ) 
性別 女性  被爆時年齢 6歳 
被爆地(被爆区分) 広島(直接被爆)  執筆年 1999年 
被爆場所  
被爆時職業 児童 
被爆時所属  
所蔵館 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館 
お手紙を嬉しく拝読致しました。

「ダニ・カラヴァンへの二三の手紙」の小冊子をありがとうございました。

八月七日夕方、第四回ヒロシマ賞を受賞された現代美術家、クシュシトフ・ウディチコ氏の「パブリック・プロジェクション/ヒロシマ一九九九年八月」に行く出掛けに郵便受に大きな茶封筒がありました。

芸術の力はスゴイと感動して家路についたすぐ後に、茶封筒を開きました。

そして、アッと声を呑みました。そして心がふるえました。

「ダニ・カラヴァンへの二三の手紙」の表紙のフロッタージュにです。

被爆後、長い期間、同じ夢でうなされつづけていた胸の中の圧迫感に似ていると感じられたからです。言葉にならなくて、胸の中で浮游していた私の中のヒロシマ・記憶の胸板であると――真綿で首を締められていくような歳月――復員後の父も夢の中でうなされて、奇妙な、獣に似たうなり声をしぼり出すようにして、その声はだんだんと大きな声になっていく、隣室に祖母と寝ている私は、父の夢の中の大きな声で咽がしめつけられるような、胸に圧迫感のある夢から目覚めることができました。

父の身体をゆすり動かして、目覚めさせて、ふたりで枕元にある水差しの水を飲み、再び眠りについていました。

祖母は「ふたりして賑やかなことだね」と朝食の食卓でこぼしていました。

記憶とはどんな物質の伝達によって、その扉をひらくのでしょうか。

記憶の蘇生一

乳癌の手術を受けました後に、何十年振りにあの咽をしめつめられるような、胸の圧迫感に苦しめられた同じ夢をみました。

記憶の蘇生二

八月六日TVNHKスペシャル「サダコ・ヒロシマの少女と二〇世紀」をみまして、サダコさんの死体が解剖されて、甲状腺に小さな癌細胞がみつかったことを知りました。

私は思い出しました。一九六二年の秋に、近所の医院の先生の紹介状を頂いて広島大学病院に行きまして、二週間ばかり入院しました。今、考えてみると、サダコさんの死体解剖のおかげで、予防甲状腺癌の治療が受けられたと思います。透明な無味な液体を飲まされました。

私もABCCに中学生の時に呼び出されました。無言で物体をみるような青い目線に、素朴に小さい怒りを感じていて、なぜここに私は立っているのだろう――と。

記憶の蘇生三

私は基町市営アパートに住むようになりましたのは一九九六年三月からです。散歩をしている時に「軍馬の碑」の前で鳥肌が立ちました。噂ばなしとして聞いていました。八月六日は戦時下ですから、すみやかに被爆死したひとたちの後始末をしていた兵士が無傷で死んでいた馬をすき焼きにして食べたというおはなしです。馬肉のすき焼きを食べた兵士たちが時を同じくして次々に変死をしていったということです。たまたま肉がきらいな兵士がいて、野菜だけ食べていて助かったと言うはなしです。

記憶とは不思議です。何かをきっかけによみがえります。

お手紙を頂戴いたしまして、元気になれました。今、二月に胸椎一二に転移したための放射線治療による副作用で、身体がダルイしシビレも手や足にあります。

被爆者でフラフラ病と呼ばれていたひとたちがいました。今思えば、放射線をあびていて身体がダルクて無気力になっていたひとたちだったのでしょう。

御一層の御活躍と御期待をお願い申し上げます。

八月と九月は体調をくずしてしまいまして、御礼状がおそくなりました。

追伸

TV新日曜美術館で「隠された庭への道」を映像でみました。北海道の風景のイメージの中にピッタリとおさまっているように思いました。

厳島神社は海の庭の中にあります。

ダニ・カラヴァンさんの風貌はジャン・ギャバンに似ていらっしゃる。映画「地下室のメロディー」でアラン・ドロンをアゴで動かしていた。

市民文芸作品募集に投稿した作品を同封致します。

一九九九年十月一日

今 田 隆 子
  

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