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被爆体験について 
右近 百合江(うこん ゆりえ) 
性別 女性  被爆時年齢 15歳 
被爆地(被爆区分) 広島(直接被爆)  執筆年 1995年 
被爆場所 広島市南観音町[現:広島市西区] 
被爆時職業 生徒・学生 
被爆時所属 広島県立広島第一高等女学校 3年生 
所蔵館 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館 

当時、私は広島第一県女の三年生で南観音町の広島図書え学徒動員で毎日通っていました。八月六日朝礼の最中に被爆しました。とんで来た瓦でけがをしたり火傷をされた友達が多くいました。私は幸いにもけがをしなかったので友の看護をしました。その間にそれぞれどこかに逃げて行き、残ったのは私と知らない女の子と二人になっていました。逃げましょうよと云いますと、私は歩けませんと云われ一人で逃げるわけにもいかず名前も知らない(同じ学校の生徒で二年生)子をおぶって、己斐方向に歩き始めました。

何橋かわかりませんが、橋のそばの家が燃えていてそれがくずれ落ちる迄に通らなくては道が有りません。一人で歩くのは楽ですが自分と同じ位の女の子をおんぶして火の前を歩くのは大変でした。私達が通った後に家がくずれ落ちました。橋のそばには焼けて真黒になった人、皮フがたれ下って下着のゴムだけ体にくっついている人、歩けなくなって倒れる人、そんな人ばかりで本当に生地獄でした。

一人おぶっているのに、おぶってくれと云って何人か寄って来ましたが私には何にもして上げられませんでした。途中で黒い雨が降り出しました。橋を二つ渡って己斐近くのバラック小屋で雨やどりをしました。家の中には生れて三ヶ月位の赤ちゃんが木箱に入れられて泣いていました。ここ迄連れて来たのに置いて行かなければならなかった親の気持ちを考えると、本当に辛く悲しかった事でしょう。何も出来ない自分も辛かったです。今でも時々その時の赤ちゃんの夢を見ます。誰かに助けられた事と信じていますが。

雨が小降りになったので又おぶって線路を通って我が家の有る祇園町に向かって歩き始めましたがまだ枕木が燃えていて歩くのが本当に大変でしたがとにかく早く家に帰えりたい思いで歩きましたが腰が痛くなり倒れてしまいました。話した事もない下級生をふだんだったらおぶって歩けるものでは有りません。気が張っていたのでしょうか。

少し休んで道をさがして線路から下に降りました。やっと新庄橋の近く迄帰えっていました。長束、山本、祇園、も少し頑張ってと自分に云い乍ら歩いているとうちの局員の方に逢って家族の無事を聞き安心しました。その人が自転車だったので彼女をのっけてもらい一歩先に家に連れて行ってもらいました。一時過ぎにやっとの思いで我が家にたどり着き親子で無事を喜こびました。

父母は、たき出しをして家の前を通る人におにぎりを食べてもらっていました。その時のおにぎりの味は忘れられないです。おぶって帰えった彼女は県女の二年生で佐々木文子さんと云う方でした。爆風で飛ばされて腰の骨にひびが入ってぜんぜん歩けませんでした。彼女も知らない上級生の家で何日か心細い日々を過ごして大変だったと思います。五日位で家族の方と連絡が取れて帰えって行きました。

二度とあの生地獄の日を子供や孫達に見せたく有りません。核戦争は二度とあってはなりません。

四三年振りに彼女が相模原市から逢いに来てくれました。八月六日の大変だった日の事を話しオカッパ姿の当時の姿を想いうかべ乍ら話は尽きませんでした。又二年前に彼女の娘さんがわざわざ尋ねて下さり母を助けて下さって有難うございました。今日の私が有るのは小母様のお可げですとお礼を申されました。一人で逃げるのも大変な時に一人の人を助けて上げる事が出来て本当に良かったとその時つくづく思いました。

一一年前から股関節が悪くなり杖が無いと歩けない日を送っています。子供達に話しても良い事をしたネと云いますが黒い雨の中、火の中を友をおぶってどんな思いで逃げ歩いたか。私の心、姿、は想像も出来ない事と思います。

 

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