江波山広島気象台(C′の南5㎞)北技手手記
一階無電室で唯一つの窓(北面し爆源稍右寄に望見し得、縦7尺横3尺、下半分廻転式で下部一尺ほど開いていた)に向い受信中の処8時18分頃、当時同方向に太陽が出ていたにもかゝわらずそれをも凌ぐ閃光を感じ、ハッとして顔を上げた際青空を白色の朝顔の花のような光幕があたかも水面に油滴を落した場合の如く、サーッと超スピード(1秒間何粁の程度で天空を円形に拡って行くのを見た。次の瞬間(時間にして0.5秒くらい?)眼前近くで撮影用マグネシウムを大量に焚いた様な閃光と「熱いッ」という叫声の出る程の熱感(よく燃えている竈の焚口へ顔を近づけた程度)を少時間受けた。(0.5秒位?)。てっきり近所え爆弾が落ちたものと思いとっさに椅子を後えはねのけ床上に伏せ2~3秒経ったと思う頃轟然と爆風が頭上を掠めて行くのを聞いた。(最初閃光を感じてからこれまでの時間は後日何回も同様の仕草を繰返して測って見るのに約5秒間である。)やれやれと一面に被っていた破片とか腰の上に落ちかかっている受信機等を徐々にのけてやおら起き上り振り返って見ると窓とは反対側にある入口の丈夫な扉を強引に押開き廊下を距てて次の事務室の硝子戸を吹破り怪我人を出していた。窓際に置いてあった重い受信機(36cm 22×20cm、17kg)は1m余り吹き飛ぶ、椅子に当って一応止り、身体の上に落ち、ホーン型拡声器 ローラーA型)3.5m距てた入口脇の壁に吹きつけられ少し凹んで転っていた。硝子片の飛散状態を見るに、入口附近の壁のうちでもむしろ上部寄りに多数の損傷を与えている。その他受信機の真鍮製ケースにも多数傷痕とともに小破片が突刺っていた。
出典 日本学術会議原子爆弾災害調査報告書刊行委員会編 『原子爆弾災害調査報告書』気象関係の広島原子爆弾被害調査報告 附録三 体験談聴取録(抄)
日本学術振興会 1953年 132頁 |