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母子像 
四国 五郎(しこく ごろう) 
性別 男性  被爆時年齢  
被爆地(被爆区分)   執筆年  
被爆場所  
被爆時職業  
被爆時所属  
所蔵館 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館 
ひろしまの片すみで
ぼくは絵を描く
F40号のカンバスにとりくむ
絵具をかさねる

母子像を
ベトナムの若い母と娘と息子の
黒いベトナム服の母子像を

せまいF40号のカンバスのなかに
ベトナムの母の怒りを
恐怖のまざる怒りを
夫と子どもたちへの愛がひきだした怒りを
そしてついに消すことのできぬ怒りを

ぼくは描かねばならぬ
娘と息子の
たしかな目を
うたがうことをしらぬ眸を
愛とはこれだといえる妻のまなざしを

ぼくは描かねばならぬ

母の胸と腕と指と
ときはなちがたく結びあわされた娘と息子と
日本の母と娘と息子と

にぎりあいひきよせあう腕に
弾みの失せぬ鼓動が伝わるのを
F40号のカンバスにぬりこめねばならぬ
ひろしまの片すみで描かねばならぬ

ぬりかさねる絵具が
おもわぬマチェールをみせようと
ぼくはそれを削りおとさねばならぬ
したたるグラシが
あやしい幻想を色どろうとも
それを拭き去らねばならぬ
走る筆の
線の
色の
面の
すべての魅力が

たとえば
ひろしまのぼくと
ベトナムの母子とのつながりを抽象するなら
ぼくは耐えねばならぬ
歯がしみて耐えねばならぬ

F40号のカンバスはせまく
娘と息子の父
若い母の夫
彼はカンバスにはいない
彼はいま
銃を提げ
デルタにひろがる水田をよぎり
遮へい物づたいに戦略部落ににじりよる
または
爆薬を抱き
ごう問とぎゃく殺と毒薬のなかに
いまは全身をあらわし
B57爆撃機に
横田からきた核兵器搭載用機に接近する

おのれの腕のなかへ
おのれのベトナムを抱きしめる
その日に向かって接近する

ぼくは
ひろしまからベトナムの母子像によびかける
ぼくらのよびかけをぬりこめる
ぼくらの責任をぬりこめる
F40号のカンバスのなかに
こめる

出典 四國五郎『四国五郎詩画集 母子像』広島詩人会議 一九七〇年 一五~一六頁

【原文中には、ジェンダー、職業、境遇、人種、民族、心身の状態などに関して、不適切な表現が使われていることがありますが、時代背景を理解していただくという観点から、原文を尊重しそのまま記載しています。】

  

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