「私は、その瞬間、何をしたか」私だけの瞬間を、今報告します。
私は、その時、広島は千田町三丁目、元安川の下流にかかる南大橋の東側におりました。爆心地から二キロメートル位離れた所です。入学したばかりの中学校で、その瞬間が待っていようとは。私は中学一年一二才の男の子。蝉の声のせいかヤケに暑苦しい八月六日の朝でした。
全校生徒は学徒動員で今日も授業はありません。
突然、「B29から落下傘だ!」と叫び声、この声を最後に、しばし人の声を聞けませんでした。
私は、懸命に校舎の谷間から落下傘を探しました。見たのは、聞いたこともない強烈に差し込む閃光だけ。
「痛ッ!アー目が、目が見えん、見えんヨー!」
その時、頭の中は -真っ白に-
「アチィッー!」 -熱い圧力を感じ-
「ゴーツ」遠くに聞こえる轟音と地響きを感じながら「何が起こるのか、どうしようか・・」不安一杯で、辺りを見回した瞬間、真っ黒な闇夜になりました。
私は強烈な「孤立感」と「恐怖感」それにどうしようもない「無力感」に包まれながら「わしの運命はここまでか」と感じた瞬間をもちました。
私は、一刻も早く逃げ出したい一心で、宛もなく駈けだしましたが二三歩の所で、凄い爆風が私を吹き飛ばし石畳の上に叩きつけました。
私の上に校舎の壁土や柱が重なる様に落ちてきます。手足は動かず口や鼻、耳には土を詰め込まれ、永い永い息苦しさの続くうちに気が遠くなっていきました。
時がたち再び、私は頭の上に人の声を聞きました。これが、私だけの瞬間です。
私は、当時の少年、自らの体験に加えて、私の目は当日その瞬間から永い日々、様々な現実を我が身の事のように、人災その後を観察してまいりました。
そして平凡ですが「人間とは何者だろうか」と考える日々もありました。ある日私が納得できる自分に気ずきました。「私は、なによりも人間が好きなんです」と、今も、これからもそうです。(一九九五・一一・三〇 和木)
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