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被爆体験について 
河田 和子(かわだ かずこ) 
性別 女性  被爆時年齢 13歳 
被爆地(被爆区分) 広島(直接被爆)  執筆年 1995年 
被爆場所 広島市古田町高須[現:広島市西区(高須)] 
被爆時職業 生徒・学生 
被爆時所属 広島県立広島第一高等女学校 2年生 
所蔵館 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館 

オレンジ色の閃光が音もなく飛び込んできた。何が起きたか判断もできず、思わず机の下に身をかくしていた。

昭和20年8月6日、現在の東高須駅付近にあった広島7264航空機工場での朝の出来事であった。私は広島第一県女の2年生、学徒動員生として友人たちとその日の始まりを待っていた。その時であった。倒壊しかけた建物から脱出した私たちは、気がついたら山の中のびわの木の下にうずくまっていた。その時黒い雨が降った。それまで何が起きたか考える余裕もなく、無我夢中で逃げていた私たち。その頃になってようやく思考が戻り、閃光を浴びる前の記憶が蘇った。その日、仕事は休みだと言われ近くの川に泳ぎに行くような計画だったと思う。今思えばすでに飛行機の材料も不足だったのだろうか、戦争末期の国情を知る由もない私たち…。その時、警戒警報が解除されたというのにB29が雲一つない真っ青な真夏の空を、飛行機雲をひいて飛んでいた。不思議に思い窓辺に近づいた途端の出来事。当然ガラスの破片で怪我もしていたが山に逃げても、しばらくして血を見るほど頭も心も空白の時であった。待った。本当に待った。でも誰も迎えに来てくれなかった。迎えのあった友人は1人去り、2人去り、大きな不安の中で時を過ごした。人間とも思えない悲惨な姿で避難してくる被災者を茫然と見ながら、ようやく家族は、我が家はと、思い巡らせるようになった。ガスタンクが爆発とか、燃え盛る市中の炎を見て油をまいての焼夷弾の投下だから黒い雨はその油だと言い、市中心部の我が家にはとても帰ることは出来ないと思った。恐怖と不安の中で待っていた私は、友人と一緒に疎開先と決めていた地御前に向かって歩いた。道中ぞろぞろと絶えることなく被災者が「水を、水を」と求めながら、皮膚をぶら下げて焼けただれた裸身で私たちと一緒に歩いた。皆黙ったまま、でも心の中では「頑張って頑張って」と絶叫の想いで歩いた。地御前には母がいた。5日の夜の空襲警報で広島に帰らず命拾いをした母がいた。生きていることを確かめあった感動。

しかし翌日からは父を探し求めて、いまだ燃えくすぶる大手町の我が家へ、そして市内・市外と心当たりを歩いて歩いて1カ月、ついには生きて再び会うことは出来なかった。道中「背中の子供がいない」と泣き叫ぶ母親、川に浮かぶ人間とは思えない死体を、あるいは道に転ぶ焼けただれた死体を、この手でひっくり返しては確かめ、紙屋町では油をかけて焼く死体のお腹が割れてオレンジ色の腸がむくむくと盛り上がる様を母と二人で無言のまま見た情景。恐怖もむごさも、悲しさも辛さも苦しさも何もない、意志も感情も喪失した心の状態の多感なはずの13才の日々であった。9月の広島を襲った台風で洗われた我が家の玄関の石畳の上から、灰燼(かいじん)となった一片の白骨がみつかった。ともにいたはずの伯父夫婦はついに見つけ得なかった。一瞬にして身内を、多くの友を、我が家を、そして学校を失ってしまった。そして9月末日、喉から出血しジフテリアと診断されるや、たちまち発熱、高熱が続き腸出血、脱毛と今思えばまぎれもなく原爆症の発症であった。当時は腸チフスと診断された。全てを失ったと言っても過言とは思えぬあの日から今日まで生かされてきたものは何?平和なればこそ、いろんな恵みを受けて今日を迎えられていることへの感謝、この想いを伝えてゆかなくてはの強い願い、この重い歴史を確認することで更なる平和への私の祈りでもある。我が命ある限りの鎮魂の深い想い、次の世代を担う人たちへの私からの発信でもある。
 
 
*読みやすいように文字の変換や句読点、送り仮名などを一部補っています。
  

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